なぜ私たちはまだ地図で迷うのか?調査で判明した、屋内ナビゲーションの意外な未来
1. はじめに:巨大モールや大学で迷子になった経験はありませんか?

巨大なショッピングモール、複雑な病院、広大な大学キャンパス。
あなたも一度は屋内の「現在地」を示す地図を前に、どこへ進むべきか分からなくなった経験があるはずです。
どれだけ地図を見ても、自分の視点と一致せず混乱し、同じ場所をぐるぐる回ってしまう――
これは多くの人が共通して抱える問題です。
この課題に対し、2017年の修士論文(Achmad Maulana Malikul Hakim)では
「地図ではなくビデオを使った案内の方が、人は迷わないのでは?」
という仮説が検証されました。
結果はきわめて明確で、ビデオは単なる代替ではなく、地図を大きく凌ぐ可能性を示したのです。
この記事では、その研究で明らかになった 4つの主要な発見 を解説します。
2. 発見①:驚くほど「道の間違い」がゼロになる
・地図 vs ビデオ ― 決定的な差
研究でまず際立ったのは、ビデオ案内の「正確さ」です。
地図利用者:平均1.7回の道間違い
ビデオ利用者:平均0回(完全にゼロ)
・なぜ間違いが消えるのか?
理由は 認知負荷の差 にあります。
地図:上から見下ろす「鳥瞰視点(allocentric)」
→ 脳内で自分の視点に変換する必要があり、混乱しやすい。
ビデオ:最初から「一人称視点(egocentric)」
→ 翻訳作業が不要。見たまま進める。
つまり、ビデオは「脳に優しい」案内方法なのです。
3. 発見②:到着時間が3分の1に短縮される

・数字で見る圧倒的スピード
地図:平均295.4秒(約5分)
ビデオ:平均100.3秒(約1分半)
迷いが消えることで、移動時間が約3分の1になりました。
「ためらい」「立ち止まり」「引き返し」がなくなることで、
移動は驚くほどスムーズになります。
4. 発見③:ユーザー体験がすべての項目で劇的に向上

・UEQ(ユーザー体験評価)で全項目に差
研究のアンケート結果は、ビデオの圧倒的な優位性を示しています。
項目 地図 ビデオ
分かりやすさ -0.03 1.90
効率性 0.43 1.61
斬新さ -1.63 1.53
・参加者の生の声
「フレンドリーで使いやすい」
「まるでGoogleストリートビューのよう」
「自分が歩いているような感覚になる」
ビデオは単なる情報ではなく、
「疑似体験」できるガイド として機能していることが分かります。
5. 発見④:「情報のインプット」には時間がかかるという逆説
・唯一地図が上回ったポイント
案内開始前の「理解時間」だけはビデオのほうが少し長めでした。
地図:74.2秒
ビデオ:95.1秒
ただしこの差は統計的に有意とは言えず、
むしろ 先にしっかり見ておくことで移動が完璧になる“先行投資” と考えられます。
6. まとめ:静的な地図は過去のものになるのか?

研究は、ビデオ案内が
正確性・スピード・体験品質すべてで地図を上回る
ことを示しました。
複雑な建物が増え続ける中、
これからの屋内案内は「静的な地図」ではなく、
インタラクティブなビデオガイドが標準になる未来すら十分あり得ます。

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